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■ PROFILE
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鶫謙一(つぐみけんいち)
    1948年石川県輪島市に生まれる。慶応義塾大学法学部政治学科卒、金沢大学大学院経済学研究科修士課程修了。

    英国国立ウェールズ大学通信制大学院日本校助教授、環境マネージメント監査、北陸大学非常勤講師(環境倫理学、環境政策)。

    [ 環境関連の主な活動 ]

      1989年 地球の友金沢代表
      1992年 リオデジャネイロ「地球サミット(国連環境開発会議)」に参加
      1997年 地球温暖化防止石川連絡会代表、温暖化防止京都会議(COP3)に参加。
      1999年 フューチャー500北陸代表

      その他、環境問題の講演、TV・ラジオ出演、「自然の権利」に関する著作、 日本ユニセフ協会・石川友の会会員。趣味:山岳自転車ロード、スキー。
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『シリーズ人間地球環境論・水』
鶫 謙一
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ボタン [ 第1章 ] 地球環境問題の困難性
pic  環境問題の解決を難しくしている理由は、大きく三つある。第一は、一人の人間が環境にインパクトを与える立場とインパクトを受ける立場の両方に在ることである。ここでは相反する役柄を一人二役演じなくてはならない。今我々はインパクトを与えつつ同時に受けている事を認識し、この一人二役を出来る限り整合させる努力が求められている。例えば「寒さにめげず、暑さに耐え、近いところは歩き、遠いところは自転車か公共交通機関を利用し、化学物質の入った食品は極力避け、食事は過度にならず、石鹸洗剤を使用し、汚染物質を排出せず、過剰な包装類は断り、水を大切に使う」ような人が社会のマジョリテイーになれば、環境問題は解決する。しかし、大抵の人は実行に着手する以前に出来ないものと諦めている。

 第二は、一人の人間が環境に対して一のインパクトしか与えないとしても、一億人の人間が同じことをやったとするならば一億のインパクトとして返ってくることである。例えば、一人が1リットル10km走る車で、毎月300km走行すると月30リットル、年間360リットルのガソリンが消費される。この数字に炭素換算係数0、64を掛けると一人当たりの車による年間炭素(C)排出量が算出される。炭素にして年間約230kg(3,7倍すると二酸化炭素量(CO2)排出量になる)となる。一人でもかなり大きな数字だが、5000万台の乗用車が同じ行動をしたとすると、1150万t(4255万トンのCO2)が毎年大気に排出されている。実際にはわが国の二酸化炭素排出量の約20%が運輸部門であるから、約6600万t(2、4億tのCO2)になっている。最大の排出国アメリカは約30%が車に起因するから莫大である。このように一人の僅かな環境インパクトが累積して、世界規模では地球容量をはるかに越えている。ちなみに、約13億人の中国には日本より多い1億台の車があるといわれるが、これら発展途上国からのインパクトも今後益々大きくなる。

 第三は、インパクトは既に様々な形で表れているのだが、地域差や時間差がありリアリテイーが乏しいことである。オゾン層破壊のインパクトは世界規模で広がっているが、現実の被害はオーストラリアや高緯度諸国である。地球温暖化による様々な気候変動は、旱魃、洪水、台風、氷河の融解など既に世界各地で多発しているが、海面上昇による現実の被害を受けている太平洋やインド洋の島嶼国に比べて、世界の取り組みは未だ遅々として進んでいない。確かにインパクトは一様ではないが、ハワイ・マウナロア観測所における約40年間にわたるCO2濃度の観測数値からは、20世紀後半急激に増加していることが分かる。この現象が地球生態系に対しボデイーブローのように侵攻し、ある閾値・限界を超えたときに重大な影響が予測される。そうなると不可逆的な被害が発生し、現在でも困難な対策が更に難しくなる。 illust 例えば、フロンから代替フロンへの切り替えに見られるように、オゾン層破壊を防止するには有効物質でも地球温暖化に対する影響は依然続くのである。モントリオール議定書(1987年)によってオゾン層破壊物質であるフロン(CFC類・フロン11、フロン12など)の生産は中止されたが、脱フロンが達成されたのではなく、塩素Cを含まない代替フロンHFC(フロン22など)への切り替えられたのである。これによりオゾン層破壊の進行は止まったことになるが(実際には既に使用されているフロン類処理が適性に行われずに増加している)、地球温暖化に対するインパクトは依然変わらないのである。なぜならば、代替フロンの地球温暖化係数は20年のスパンで見るとCO2の4000倍にもなり、CFC類同様の高い温室効果があるからである。

 このように我々人間による地球環境へのインパクトを最小にすることは大変困難である。そこでこの関係を次のような簡単な式に表して評価指標とする。

       I=TAP I-Impact、T-Technology、A-Affluence、P-Population
       I(環境影響)=T(技術)×A(豊かさ)×P(人口)
つまり、地球環境の影響は技術、豊かさ、人口の積で表される。したがって、インパクトを下げるということはこの3つの数の絶対値を小さくするということである。2025年を目途に、この3つの要素を予測すると、まず人口は途上国を中心に増加し、85億人に達すると予測されている。今後予想される地球環境の悪化、新たな病原菌の発生、食糧や水不足等を勘案すると果たして人類はこれほどまで増加するか疑問であるが、現時点での60億人を下回ることはないであろう。豊かさは主として先進国に住む約12億(世界の20%)の人間の欲望である。大量消費生活に慣れきった我々が、「消費は美徳」から「節約は美徳」へ、「もったいない」「足るを知る」の精神を生活様式の中に取り戻し、大胆な意識変革を起こすことができるかどうかにかかっている。技術については制度や法律などを加えた広い意味での社会工学として捉えると、省エネ、再生可能エネルギーの急速な発展、資源効率を2倍、4倍、10倍にする技術革新など可能性は大きい。このように見ると、インパクトの絶対値を最小にする鍵は、(1)エネルギー・資源・技術革命(2)価値観の大変革(3)大変革を推進する専門家集団、(4)税制、補助金、法律などの制度改革である。特に、20世紀豊かさ・便利さを追求してきた我々が、21世紀に如何なる価値観に基づいて生きていくかが大変重要である。

 こうした視点に立って、21世紀人類が直面する最も深刻な地球環境問題の一つ「水資源の枯渇と汚染」およびそれに関連する「食糧問題」について考える。

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ボタン [ 第2章 ] 水の惑星の危機
pic  水の惑星地球号が水不足と汚染に襲われているという。この問題を考える前提として、水についての基礎知識を整理しておこう。
 地球物理学的に見ると水は気体、液体、個体のいずれかの形態で大気圏、水圏、陸圏を循環する地球上で最も多く存在する物質である。水の総量は算定の代表例によると13,8億立法kmであり、水で地球表面を覆うと平均水深2700mになる。実際地球表面の70%は海洋で占められているから、まさに膨大な量である。
 地球上の水はどこに存在するか。海の塩水が水の約97.5%とほとんどを占めている。残り2、5%の陸水のうち1、75%が氷河などで、地下水が0、73%、湖沼・河川水は僅か0、01%に過ぎない。南極、北極、グリーンランド、ヒマラヤなどの氷河は莫大であり、地下滞水層の地下水も陸地表面水の73倍もあることになる。水の枯渇とは、我々が使える湖沼・河川水と地下水の僅か1%にも満たない存在のことである。
 ところで水の物質特性を考えてみるとその働きの特異さが分かる。一つは溶媒機能である。水は物を溶かす、つまり溶媒として働いている。酸素や二酸化炭素といった分子から汚染物質まで様々なものを溶かす。我々が飲用している水には多くのミネラルが溶けていて美味いが、純水のH2Oはまずくて飲めないそうである。この特性は、有用なものばかりでなく、様々な有害化学物質や重金属類などの汚染物質も溶かす。こうした汚染を伝播、蓄積することにより、水自身も破壊されることになる。もう一つは循環である。水は太陽エネルギーによって地球規模で循環しているが、これによって気候の安定が保たれる。つまり、太陽によって暖められた海洋や地表熱は水蒸気や植物の蒸散作用によって上昇し、上空で放熱し水滴となって再び地表に降下する。こうして熱エネルギーは水とともに大気を循環することによって、地球の"熱的平衡"が保たれている。

 日本列島はアジアモンスーン地帯の東の端に位置し、世界でも有数の多雨地帯である。わが国の年平均降水量は1750mmで、世界の陸地の平均降水量970mmよりはるかに多い。ロンドンやパリなどは約750mmであり、ロスアンゼルスの夏はほとんど雨が降らない。この豊富な雨の恵みが水田をもたらしている。しかも山がちな地形にもかかわらず棚田で水をうまく保水しながら、2000年に亘り同じ場所で耕作を可能にしてきた。急流河川を流れ下って海に至る河川水を水源の森や里山の保水能力で地下に浸透させ豊富な地下水脈を形成してきた。水は人間だけでなく生きとし生けるものに等しく恵みをもたらすものである。ブナの森に降った雨は葉っぱから幹を伝い根から地中に浸透し、地下滞水層に100年、1000年の時間を経て地下水となって涌き出てくる。こうした水を利用する知恵が近年急速に廃れ、この太古からの循環が汚染や枯渇といった異変を起こしている。

 わが国では長い間水はタダであった。"我田引水"という諺があるように水利権の争いなど、水を巡る対立はあったが、経済学的にみると水は自由財ないしは社会的共通資本であって、労働力によって生産再生産される"商品"ではない。こうしたことから価値のパラドクスが起きる。つまり、生存に不可欠な最大の使用価値を有する水だが、市場価格を持たないが故に過剰消費されてきた。もちろん正確にはタダではなく水道料金を徴収されるが、商品としては扱われていない。それが近年ペットボトルとなって売られるようになったことは、水も交換価値を有してきたというべきであろう。水が価格を持つということは何を意味するのか。それは水を豊富に持つ国や人間が排他的独占的に支配可能であることを意味する。つまり、人間を含め生命の基本条件である水は他の物質と異なり全てに公平に分配されなくてはならない。しかし、こうした観点が変化し、水が21世紀の国際的戦略物資となりつつあることを次に見てみよう。
 四大文明の一つユーフラテス川はトルコを水源とする国際河川であるが、河川の水利を巡ってトルコと下流のシリアが対立している。トルコはアタチュルクダムを作り、近隣農作物の生産高を3倍に増加させた。さらに20以上のダム建設計画を立て1700万haの農地に水を供給し農作物輸出国を目指している。これに対し隣国シリアでは水位が2mも低下し、綿花2割、小麦5割の収穫減が続いている。さらに水道が当てにならず、水売り業が水道の2倍の料金で水を供給するようになっている。トルコは自分の国の水を自由に使う権利を主張し、シリアに対し毎秒500tの水を流す協定は守られていると言う。さらにトルコはキプロスに対し一航海2万tの水を輸出し、リビアには年間2億5千万tの水輸出計画をしている。2004年からは地中海パイプラインによる水供給が開始する。まさに水は石油に変わって中東諸国に政治的、経済的影響力を強める戦略物資になろうとしている。しかし、水はあらゆる生命を維持する根源であり、単なる資源ではない。しかも石油はエネルギーとしての機能しかなく代替可能であるが、水は不可能である。こうした水の特殊性を考えると、21世紀において公平な水の国際管理が急務となるであろう。

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ボタン [ 第3章 ] 第3章 水と農業
 20世紀世界の人口は4倍に増加し、水の需要は7倍に増えた。20世紀の後半50年間で穀物の生産量は3倍に、食肉生産量は5倍に増加した。1tの穀物を生産するのに1000tの水が必要である。1kgの牛肉は7kgの穀物から成るので、7tの水を要することになる。世界の穀物生産量は約20億tだが、穀物に換算するとアメリカ人は一人当たり年間約900kg食べ、、日本人は約300キログラム、中国人は約280kg食べている。アメリカ人が多いのは肉食中心の生活だからだが、中国人の1割つまり日本人と同じ人々がアメリカ並の生活をしているといわれる。ブラジルのマットグロッソ州では、既に60%の森林が大豆畑のために焼畑で破壊され、穀物飼料用に中国と日本に輸出されている。
 人間は1日約2リットルの水を飲むが、それ以外の生活用水、公園や芝生の散水やトイレやオフィスなどの水も含めると、一人1日当たりの水の需要は次のようになる。北アメリカ425リットル、日本322リットル、ヨーロッパ280リットル、アジア132リットル、アフリカ63リットル。やはりアメリカ人は圧倒的に多くの水を使っている。大抵の日本人は水不足を経験したことがないが、昔から水を無駄に使わない生活の知恵があった。ヨーロッパは余り雨の降らない地域だから、水を節約することが生活スタイルとなっている。文明は水辺に発祥し没落とともに砂漠化している。今後都市での水の有効利用、水リサイクル、さらには水を呼ぶ緑の復活など生態系全体を考えた水管理が必要となる。
 "世界水ヴィジョン"のウイリアム・コスグローブ博士は、現在の状況を「川に集まる水よりも多くの水を使い、数千年かかって蓄えられた地下水を穀物生産のために数年で使い切ってしまっている」と話す。アメリカの典型的な農業は地下水を汲み上げ、センターピポセンターピポットで半径約1キロメートルの円形農地に散水することで成り立っている。こうした方式によって、中西部にある古代からの巨大なオガララ滞水層の水位が15年間で12mも低下した。しかしアメリカ中西部は元々農地に適さない土地であり、灌漑農業に頼っているだけに数年で放置されるところも出ている。日本のような水が豊富で農地に適したところで農業をやらずに、無理やり地下水を汲み上げなくてはならない国で農業を行う。日本は穀物の70%以上を輸入に頼っているが、見方を変えれば自分の国に豊富にあるタダのような水を使わずに、アメリカの貴重な水を高い金を出して買っているようなものである。これは自然に対する水の持続可能な利用という観点から見ると全く"世界的ミスマッチ"である。

illust  ケニアのナイバシャ湖周辺には25万人が住む。ここに近年ヨーロッパ向けの輸出用バラを生産する農場が出来た。新鮮な水はタダ同然に無限にあり、地元に雇用の機会を提供し安い労働力は商品価値を高める。これによって、ケニア経済の貴重な外貨獲得源にもなっている。しかし、花栽培による灌漑農業で水位はどんどん低下し、湖が縮小しているのである。さらに、化学肥料や農薬使用による汚染で湖のプランクトンが減少し魚が取れなくなってきた。自然状態では湖岸のパピルスが汚染物質を浄化するのだが、その浄化能力をはるかに超えてしまったのである。
illust  これらの事例から分かることは、アメリカ中西部の農業にしろ、ケニアのバラ栽培にしろここには自然の価値が含まれていないということである。つまり、きれいな水、汚染されていない土壌、排泄処理や汚染浄化など自然のサービスを無償なものとして受け入れることによってしか成り立たない経済である。考えてみれば、我々はこれまで如何に安く効率的に作物を生産するかという教育しか受けてこなった訳だから当然の結果である。水や土壌や昆虫や微生物などおよそ作物を支えている生態系の存在に目を向けろなどと教えられたためしがない。したがって、自然から手ひどい反撃を食らって農作物が全滅して初めて自然の価値に気付くのである。

メリーランド大学のロバート・コスタンザ博士は自然の価値を次のように試算した。
海(食糧・酸素供給源、二酸化炭素吸収源) 21兆ドル
森林(気候安定、木材供給、貯水、災害防止など) 4.7兆ドル
川・湖沼(淡水供給、排水浄化など) 6.5兆ドル
農地(昆虫受粉など) 0.1兆ドル
自然の年間経済価値は合計 約33兆ドル(約3700兆円)
 今、この自然価値は年3%の割合で減少していると指摘する。ちょうど経済成長と反比例している。このことは市場経済において自然価値はほとんど評価されず、交換価値のみで評価されているという制度上の失敗を実証している。ものの価値は生態学的要素としての自然価値、そのものが本来有する有用性ないしは効用を評価する使用価値、そして利潤を生み出す交換価値などの多重構造から成っているはずである。しかし資本主義市場経済において利潤を追及する交換価値のみが突出して、使用価値も自然価値も無視されてきた。実は自然破壊の根源は自然を評価し得ない価値制度にある。

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ボタン [ 第4章 ] 中国の水問題と世界農業
 1985年頃から黄河の断流が毎年起こるようになった。下流から2000km以上に渡って水が干上がり、川がなくなることである。そうなると土地の乾燥によって塩害が発生する。中国はここ50年間で穀物生産量を3倍にし、水の使用量も1950年の100億?から2000年には300億?に増加した。これは毛沢東による食糧増産計画によって実現されたのだが、今日の深刻な水危機の原因となっている。アメリカはこの中国の水危機をランドサット衛星によって宇宙から正確に把握していた。1997年アメリカ国家情報会議は「中国の農業」というレポートを作成した。これによると、「中国は2025年には1億7500万tの穀物輸入国になる。これは現在の世界の穀物輸出量に匹敵し、世界の穀物市場に大きな影響を与え、大幅な価格上昇が起こる。」

illust これを裏付ける様に、2001年2月15日英国フィナンシャル・タイムズは「高い自給率を堅持してきた中国がこれまでの政策を転換し、穀物輸入の比率を増加させることを検討していると伝えた。中国の穀物自給率は過去20年間平均98、6%で推移してきたが、これを2030年までに90パーセントに低下させる計画であるという」。経済協力開発機構(OECD)がまとめた中国農業政策に関する報告書の中で、中国国家発展計画委員会の高官が次のように明らかにした。「高自給率の維持政策が余剰の在庫や生産コスト増を招き、無理な作付けにより水不足などの環境問題にもつながっていることを配慮した結果だと言う。穀物自給率を向こう10年間で95パーセントに下げ、その後さらに90パーセントに下げる計画である。これにより、穀物輸入量は2010年に3300万t、2030年には6300万トン増加する見通しである。高官は自給率を低下させることで、農家が相対的な利益を考慮し、別の農産物を生産したり、他のビジネスに転進することが可能になるとしている。」

 ここでも農業のミスマッチが顕著である。今日本人の食卓に中国からの安い野菜が大量に入り込んである。これらの野菜は主に黄河流域の地下水を汲み上げて成長したものである。1000年の地下水から栽培した野菜は地表の水から栽培した野菜よりはるかに高い自然価値を含んでいるはずである。しかし、野菜の価格には労働コストのみで自然価値が反映されないが故に、中国産の野菜が価格競争を制している。今まさに食糧は自立の世紀に入った。食糧安全保障が緊急の課題であるはずなのに、わが国政府はこうした農政の根本的な矛盾には目も向けずに、ネギなど特定品目の緊急輸入制限実施を決定した。まずは食糧、農政の長期計画を策定し、魅力ある農業の指針を打ち立て食糧自給率の向上に取り組むべきである。

 中国経済は推定年7%成長が続き、13億人の1%弱の1200万人ずつ人口が増加している。したがって、やがては定常状態に達するものと考えられる。こうした状況において経済的富裕層が出現し、このことを示す様に肉の消費量が増えている。この事は穀物需要の増加を意味し、水不足の深刻化によって主要生産地での穀物生産量が減少しつつある中、中国は瞬く間に日本を抜いて世界最大の穀物輸入国になるだろう。水不足に直面しているのは中国だけではなく、10億の人口を抱えるインド、さらにパキスタン、エジプト、メキシコなど多数に上る。そのために世界の穀物輸入量は増加せざるを得なくなりつつあるが、中国だけは他の国と異なる状況にある。ここ数年にわたり中国経済は急速に成長し、アメリカに対して400億ドルもの貿易黒字を持つに至っている。したがって、13億の人口を抱える中国一国だけで世界の穀物市場を混乱させる要因になり得るのである。

illustこれらの野菜は主に黄河流域の地下水を汲み上げて成長したものである。1000年の地下水から栽培した野菜は地表の水から栽培した野菜よりはるかに高い自然価値を含んでいるはずである。しかし、野菜の価格には労働コストのみで自然価値が反映されないが故に、中国産の野菜が価格競争を制している。 今まさに食糧は自立の世紀に入った。食糧安全保障が緊急の課題であるはずなのに、わが国政府はこうした農政の根本的な矛盾には目も向けずに、緊急輸入制限を検討しているらしい。まずは国民の食を確保するための魅力ある農業の指針を打ち立てその実現に取り組むべきである。

 中国経済は推定年7%成長が続き、13億人の1%弱の1200万人ずつ人口が増加している。したがって、やがては定常状態に達するものと考えられる。こうした状況において経済的富裕層が出現し、このことを示す様に肉の消費量が増えている。この事は穀物需要の増加を意味し、水不足の深刻化によって主要生産地での穀物生産量が減少しつつある中、中国は瞬く間に日本を抜いて世界最大の穀物輸入国になるだろう。水不足に直面しているのは中国だけではなく、10億の人口を抱えるインド、さらにパキスタン、エジプト、メキシコなど多数に上る。そのために世界の穀物輸入量は増加せざるを得なくなりつつあるが、中国だけは他の国と異なる状況にある。ここ数年にわたり中国経済は急速に成長し、アメリカに対して400億ドルもの貿易黒字を持つに至っている。したがって、13億の人口を抱える中国一国だけで世界の穀物市場を混乱させる要因になり得るのである。

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  以下にワールドウォッチ研究所が発行する2001年日本語版『地球白書』第2章の内容のブリーフィングを紹介する。
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地下深く進行する「地下水の危機」
 目には見えないが、地球の淡水の大部分を供給しているのは地下の滞水層である。帯水層とは、砂や砂利など多孔性の物質から出来た地層や地下岩盤の間の空間で、大量の水を蓄えられる場所である。降雨や河川からの流入、氷の溶解水によって再補給される帯水層には、氷雪を除く地上の淡水の97%が蓄えられている。
 地下水は、地球全体の水循環を支える重要な役割を担っている。雨が降るとその一部が少しずつ地面に吸い込まれて、帯水層にたまる。帯水層の水は少しずつ地表に戻り、最終的には海に流れる。この帯水層と地表水や海水との循環は、かなり短時間で進行する場所もあるが、例えばチョーク帯水層では何千年という時間がかかる。河川の水は平均16日間で循環するが、地下水の平均滞留時間は1400年である。
illust  この半世紀、人口増による食糧増産の必要性が高まった上、河川の汚染が広がってきたため、地下水を飲料水や灌漑用水として用いることが増えてきた。一般には地下水は汚染からは程遠く清らかだと考えられているが、科学者はあらゆる大陸で農業や工場、都市の近くの地下水が化学汚染に曝されている事実を発見している。最も怖いのは、地下水はいったん汚染されたら取り返しがつかないということである。いってみれば地下水を汚染することは自分たちの井戸に毒を撒いているようなものである。そして将来世代の命に関わる資源を奪っているのである。幸い現在のところ、多くの地下水は未だ清浄であるが、早急に手を打たない限り、地下水が必要になったときに全てが汚染されている状況になるかもしれない。
  1. 地下水は「命」の資源
    地下水は地上の生命にとって必要不可欠な資源である。世界の15〜20億人にとって飲み水といえば地下水である。ダッカ、リマ、ジャカルタなど発展途上国の大都市、アメリカ農村部の99%の人にとって飲み水は地下水しかない。河川からの引水や地下水汲み上げなど、淡水利用のうち3分の2は灌漑用水である。1950年以来爆発的に増えた灌漑用地を支えたのは地下水である。インドの農業生産高の約40%は地下水灌漑農地からであり、世界3位の広さの灌漑用地を有するアメリカでは、その43%が地下水による灌漑である。

    農業のみならず、工業用水や都市用水の需要の増加に伴い、地下水の汲み上げ量がどの地域でも増大している。特に、河川がダムで堰きとめられたり、干上がったりしているため、地下水への依存が益々高まっている。このように地下水依存が高まるにつれあらゆる大陸で地下水位の低下が報告されている。中国北部平原では年間1、5mずつ地下水位が低下し、1965年以来北京の地下水位は約59メートルも低下したと報告されている。
     地下水は地球全体の水循環を支えて、降雨とともに河川や湖沼の水を補給する役割を担っている。アメリカの54の河川を調査した結果、平均して流量全体の半分以上を地下水が供給していることが分かった。ミシシッピ川、ニジェール川、長江なども地下水がなければ季節によって干上がってしまうだろう。

  2. 広がる地下汚染
    pic  人類は太古の昔から、死者を埋葬したり廃棄物を埋めるなど、地下をゴミ箱にしていた。しかしこの数十年間、もっと致命的なことは難分解性の化学物質を地下に流し込んでいることである。これがかってない水質問題を引き起こしている。
     帯水層は長期にわたって水を蓄積保持できるからこそ、地下水を蓄えられるのであるが、その特質ゆえに、汚染物の長期的吸収源ともなってしまう。平均すれば地下水は1400年間も帯水層に止まるのであるから、いったん汚染されると地表水のように希釈されることなくひたすら汚染物質を蓄積しつづけるのである。地下水の汚染物質として最も多いのは、農地から帯水層に染みこむ農薬や化学肥料である。中国では人口増加や農地減少から施肥料を増加させているが、北部の北京、天津、華北省や広東省では基準を超える硝酸塩濃度が測定されている。
     先進国で最も多い地下水汚染物質はおそらくガソリンだろう。アメリカ環境保護庁(EPA)の推計によると、アメリカでは約10万の地下ガソリンタンクから地下水に化学物質が漏れている。シェルは1993年「英国内にある1100の給油所の内、3分の1は土壌や地下水汚染を引き起こしている」と発表した。また塩素系溶剤の地下水汚染も顕著である。シリコンバレーでは染料や塗料、シリコンチップなどに用いられる溶剤保存用タンクの85%から塩素系溶剤が漏出している。日本では15都市の地下水を検査した結果、その30%の地下水から様々な濃度の塩素系溶剤が検出されている。
     地下の帯水層は眼に見えないので、ゴミも埋めてしまえばなくなると思えるが、地下水は益々脆弱な立場に置かれている。アメリカでは今日ですら、溶剤、重金属類、放射性物質など最も危険度の高い物質を地下水に直接注入している。化学物質は帯水層に極めて長期間止まるので、地下水に浸出してからかなりの時間がたたないと検出されない場合もある。"汚染"と"検出"の時間的ずれを考えるとこれまでに検出された汚染は氷山の一角に過ぎない可能性もある。(注:わが国でも推定40万箇所の地下水汚染があると見られている。)

  3. 不可逆的な汚染
     地下水汚染で最も恐ろしいのは、本質的には永久汚染だということである。汚染された帯水層を浄化することは、人間の時間枠では全く不可能である。まず、帯水層の規模を考えれば明らかである。例えば、オガララ帯水層はアメリカ中西部8州に広がっている。また、地下深い帯水層に手を届かせるのは極めて困難である。さらに、帯水層の水は非常に長い時間地下に止まっているということである。そして、現在地下水から検出されている多くの物質が難分解性であることが、浄化をさらに困難にしている。例えば、ワシントン州の中央コロンビア平原帯水層に浸出している放射性廃棄物の中には、半減期が25万年というものもある。
     現在アメリカでは30〜40万箇所の地下水がひどく汚染されている事がわかっているが、これを浄化するためのコストは今後30年間に限っても1兆ドルを上回るという。

  4. 地下水汚染を予防する
     いったん地下水が汚染されると汚染が永続的に続くこと、また人体や地球環境に大きな影響を及ぼす事を考えるれるので、その場しのぎの対応ではこの問題は処理できないことは明らかである。地下水源を守るためには、農業や工業、廃棄物処理の方法を根本的に変えなくてはならない。「予防しかない」と国際水文地質学協会のアンドリュー・スキナー会長は述べている。
[ 結論 ]
  人間が水環境と共生していくためには、以下の「予防原則」を厳格に守らなくてはならない。
  1. 自然界に害を及ぼさないとの確信が持てるまで如何なる物質も地下に排出してはならない。
  2. 行為の結果が不確かな場合はその行為を行ってはならない。
  3. Impactを高める如何なる危険も犯してはならない。 I=TAPを最小化するために、我々は見えない地下帯水層の存在に目を向けなくてはならない。
[ 参考文献 ]
宇沢弘文「地球温暖化を考える」岩波新書1995
ハンス・イムラー「経済学は自然をどう捉えてきたか」農文協1993
中野秀章「森と水のサイエンス」東京書籍1988
和田武「新・地球環境論」創元社1997
NHK製作「地球白書」第3巻、第4巻2000
NHK製作「水の世紀」2001
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